先日、ラジオを聴いていたら音楽制作についてのコーナーがありまして、ちょっと面白そうだという事でしっかり聞いてみたのです。
このコーナーにはローランドのエンジニアの方がゲスト出演されていまして、新しいリズムマシンについて説明していたのですが、その内容がとても興味深い。
ローランドさんは以前TR-808というリズムマシンを出していて、これがとても人気があり、絶版になった現在でも中古が新品と同じ様な価格で取引されているそうです。
このTR-808は中心となる制御部分はディジタル化されていますが、音を出す部分はかなりアナログ回路に頼っていたそうです。
このTR-808の後継機を望む声はかなりあったそうですが、ローランドさんの社風として「過去は振り返らない!」というのもあり、なかなか進まなかったらしいです。が、このTR-808をアレンジして後継機をリリースする事になってからの経緯が力技。
アナログ音源を今風にすればディジタル音源になるわけですが、アナログ版TR-808を再現しようとすれば普通考えるのはTR-808の音をサンプリングして使う。もしくは、波形データを解析して、同じ音が出る様に計算で波形データを作るというものです。私はこの2つしか思い浮かびませんでしたよ。
ところがローランドさんは「過去を振り返らない」という事からサンプリング案は却下。波形データの解析で同じ音を作り出すのも手間がかかるという事から却下。
ここでトンデモナイ方法を思いつきます。
後継機となる新型はTR-8という型番なのですが、これにはACBという技術でTR-808を再現しています。このACBとはAnalog Circuit Boardの略で、要するにアナログ回路の動きそのものをすべて計算で再現しようという方法です。
つまり、回路に存在するLCR分を含め、すべて計算によるシミュレーションで音を作り出すのですね。
アナログ回路の設計ではSpiceといった回路シミュレータは90年代頃から設計屋さんの間ではお馴染みでしたが、これは設計段階でシミュレーションをする事によって試作の手間を軽減しようという目的が主です。ところが、ACBはそのシミュレーションの結果をそのまま音として出してしまうという荒業。いわば、シミュレーションの結果はそのまま製品とい感覚とでも言いましょうか。
全て計算結果によるシミュレーションですから制御部分との相性も良いし、経年劣化もありません(TR-808はだいぶオリジナルと音が変わっている個体が多いみたいです。たぶんコンデンサの容量抜けでしょうね)。これは凄いなぁ。
音を出すだけとはいえ、リアルタイム演算のシミュレーションを行う機械が5万円程度とか。アナログ版のTR-808が20万円弱だったという事ですから、その威力は凄まじい(笑)
過去は振り返らずに、その良さを継承しつつ新しい付加価値をつけるローランドさん。凄いです!(^ ^)/