ま、去年ほどじゃないですが、3Dプリンタの事を「産業の大革命!」といった論調で取り上げるマスコミが多い事。
確かに、加工技術が無くても図面通りの物が出来上がりますし、他の部署や外部の業者さんに依頼しなくても自分の所でアッという間に出来上がりますから開発速度が上がるというのは正しいですね。
そこにフォーカスして取り上げるから産業革命となる。
でも、それって危ないと思うのですよ。
まぁ、加工を生業としてきた業者さんの仕事が圧迫されるとか、銃を作っちゃう奴が出てくる(これ、うちの近所でした・・・笑)とかはさておき、これからは加工の経験もなく設計する人が増えてくると思うのです。確かに、従来であれば加工上の制約があってできなかった造形もできてしまう事があるでしょうから、変な先入観が無いというのは時としてメリットになります。最初から諦めないからね。
でも、やはり基本の出来事は知っていなくちゃならないと思うのです。だから、学校や新入社員研修では基本作業の実習がある。
3Dプリンタではないですが、実際に私の経験を振り返るとこんなことがありました。
90年代初頭まではゲートアレイなんかを起こすのは大変でしたから、汎用のICで試作をしたり、生産数が少ない場合にはそのまま量産になったりします。
ところが汎用のゲートって基本的にはエッジセンスだからちょっとしたノイズにも誤動作します。その為に色々な実装での工夫があったりしたものです。
分かりやすい例でいえば、スイッチのON/OFFがありますよね?スイッチを動かしたときに、内部の接点は金属ですから極々短時間ですが跳ねるのが当たり前で、収束してキチンとつながるまで数mSecかかります。これがチャタリング。
汎用のゲートって、物にもよりますが数nSecもあれば動いちゃうのでチャタリングが発生すると誤動作します。その為、ゲートへの入力の前にCRを入れて波形を鈍らせ、更にワンショットのマルチバイブレータなんかを使って安定したスイッチからの入力を得ようとします。
最近はマイコンも非常に高速になったとはいえ、数nSecで反応するほどではないですし、そもそも内部タイマを走らせておいてポートを何回かサンプリングした上でスイッチの動作を判断するレベルセンスができますから、チャタリングとは無縁になります。とは言え、チャタリングの事を知っているのと知らないのでは大きな違いがあるはずです。
※数nSecで動作しちゃうという事は、外来ノイズが飛び込んでゲートのスレッショルドレベルを越えたら誤動作するわけで。
私はPLDの出始め(PALとかGALとか)までがガリガリに回路を描いていた時期ですので、その後のVHDL等の詳細は知りませんが、ゲートで物を考えていた時期と数式で物を考えた時期とでは大きく違ってきているのですね。
※余談ですが、GALの16V8というデバイスを使っていた時、パラで出力されるゲートに遅延のバラつきがあって、後段のゲート軍が誤動作するのに悩まされました。出力のバラつきは数nSecですが、ゲート軍が誤動作するのに十分な時間があるわけです。後日、出力の遅延が揃った(これが正解)の改良版の16V8Aというデバイスに置き換えたら見事に設計通りに動くという・・・(笑)
以前にも書いた事がありますが、最近「回路設計ができます」という人の多くが組み込み用のマイコン世代だったりします。なので、GNDの扱いとかが雑なもんですからリファレンス回路通りに設計をしてPCBを起こしても・・・動かないんだな!(笑)
これが同一基板上ではなくI/F経由で別の基板と通信しようものなら何が起きているのかの想像すらつかなかったり。「GNDが揺すられてない?」と言っても、「え?つながっていますよ」程度で分からないんだもん。
良く同業の人と話をする際に、「ハード屋から組み込みへ入った人は何も信じない事を前提にしているから、予め想定できる事象に対して対策を盛り込ん でおく」と話をします。中には「ハード上がりの人は9割が例外への対応(フェイルセーフに働く)だよね?」と返して下さった方もいます。
これがソフトから入ってきた人は、求められる仕様部分だけのロジックしか実装しないので不具合が起きた場合に完全にアウトになってしまう事が多いようです。
組み込みに興味がある人にアドバイスを求められた場合、私はこう答えます。
「まずは簡単な物で良いから汎用ICの組み合わせで何かを作ってみよう。オシロスコープの使い方を覚えよう。それからCPUに対するソフトを覚えても遅くはないから」
話がそれていますけれど、3Dプリンタも一緒だと思うのです。従来の技術等が「なぜそうしているのか?」を知っていて3Dプリンタを使うのであればとても便利で強力な武器になると思います。
ですが、工作機械に限らず簡単な例でいえばヤスリがけの基礎を知っていて3Dプリンタを使うのと知らないで使うのでは出来上がったもので不具合があった際の対応能力(想像力と言ってもいい)に大きな差が出ると思います。
だから「3Dプリンタが産業革命だから!」と、そこからスタートしちゃうのは大変危険だと思うんですよ。