ここ数年、インターネットがものすごい勢いで普及したのは周知の通りです。過去にこれほどまで爆発的に普及したインフラは無いとまで言われる位の普及をしました。
日本でここまで普及した要因として、「常時接続&定額制&低価格」という事は間違いないところです。しかし、この「インターネットの特性」と、「低価格」が違った面でも影響しています。

インターネット、それもISP関係の仕事をしたことがあったり、関係者に使い人は聞いたことがあるかもしれませんが、「ISPは儲かる商売」ではありません。一般に言われるISPは大手であっても1次プロバイダーであることがほとんどです。日本にあるISPの世界は大ざっぱに言えば・・・ピラミッド構造です。
 IX(日本のバックボーン) — 1次ISP(大手です) — 2次ISP –3次ISP
頂点に一般的にはIX(インターネットエクスチェンジ)等と呼ばれるバックボーンが存在します。例えば有名なところでは大手町のKDDIビルはIXとして活動しています。ここに大手の1次ISPが接続されています。つまり、大手ISP同士を接続したり、海外と接続したりするのがIXの仕事と思えば間違いないでしょう。
このIXには1次ISPが接続されていますが、この下に2次ISPが接続されています。この2次ISPはCATV局や地域の中小ISPがあたります。場合によってはその下に3次ISPが接続されていて・・・という仕組みです。

まず、IXの接続料金ですが、かなり高いです。興味のある人はIXの料金を調べてみると良いでしょう。
仮に、1Gbpsあたり1000万円/月とします(これでも決して高くはないですよ)。1次ISPは自分の顧客(個人や法人など)にもこの帯域を再販しますが、それ以外に2次ISPにも再販します。最近話題のFTTHだと100Mbpsといったメニューがありますから、例としてこれを取り上げます。FTTHの料金ですが、6000円/月といったところでしょうか?計算してみて下さい。1Gbps(=1000Mbps)を100Mbpsで割ったらいくらになりますか?
そう、月に100万円を請求しないとなりません。また、メールサーバや管理者人件費,広告費といった経費も発生しますから、実際にはもっと請求しないと成り立ちません。
では、なぜ6000円/月で実現できるのか?それはもっと多人数の人に再販するからです。少なくとも100Mbpsを2000契約とるからIXの料金が支払えます。パケット通信の世界ですから、速度は単純な割り算にはなりませんが、1Gbpsを2000加入で割ったら速度が出ないのは当たり前です。
以前のようにブラウザを使ったりメールを使ったり・・・といった利用者が多ければ2000ユーザーでも100Mbpに近い速度が出るでしょう。しかし、昨今のP2Pアプリケーションの流行などでトラフィックは逼迫する一方です。

次にインターネットの特徴について。
そもそもインターネットはARPAに始まった軍事用ネットワークです。当然軍事用ですから高い信頼性は求められるのですが、それよりも戦場などでは安定した通信回線の確保はまず無理です。有線は切断される可能性は高いですし(湾岸戦争等で多国籍軍はまず通信施設を破壊したのは記憶に新しいでしょう)、無線施設も同様です。そもそも無線そのものが安定していません。その中で、インターネットは「できるだけ相手にデータが届けられるよう頑張ってみる」というコンセプトで設計されています。
そう、インターネットのデータは相手に確実に届く保証は何もないのです。

これまで書いてきた2点から結びつけられることは??
インターネットの主に個人利用では「価格が安い分、品質はそれなりです(つまりベストエフォート)」という事になります。元々信頼性に欠けるインターネットで品質の劣る回線(それでも日本は世界トップクラスですが)ですから、確実性が求められる利用をすることそのものに無理があります。
ISPの仕事をしていた時には以下のようなクレームがありました。「インターネットの株売買で締め切り時間間際に回線が不安定で売買のタイミングを逃した。損害賠償を求める。弁護士にも相談している」。こんなクレーム、結構あります。実際に、私の居る会社にクレームを付けてきた本人と弁護士がやってきたこともあります。
こんな時、ISPの人間はどう考えているか?別に「弁護士だ、訴訟だ」と言われても何ら怖がりません。元々、確実性を期待する利用方法には無理があるのですから、契約約款などでキチンと免責事項が規定されていることがほとんどです。仮に訴訟騒ぎになったとしても、まず全面敗訴という事はないですね。そこまでのサービス(信頼性)を個人向けの費用で保証するのはどんなに企業努力をしても無理ですから。私の例で言えば「ふふふ」と言った具合に楽しみにお待ちしていましたよ。やってきたクレームのご本人&弁護士さんに技術的な説明をキチンとさせて頂きました。結果?勿論、ご納得していただきましたよ(笑)

金融機関をはじめとして、企業などで本当に品質(信頼性)を求められる部分には専用線を使ってクローズされた環境を使います。勿論、セキュリティの意味もありますが、インターネットの様に「いつとどくか分からない」回線で大事なデータは扱えないと言うことです。

株のネット売買等をされる場合には電話回線を使った専用システムがお勧めです。どうしてもインターネット経由で使いたい場合にはインターネット用の専用線なり(1.5Mbpsで数十万/月)、複数の回線を用意して多重化するなりした方が賢明です。

最近、某ISPのサポート宛に「損害賠償を請求する、弁護士と相談中だ!」といったメールが入りました。個人の損害賠償ですから、たぶん訴訟費用の方が高くつくでしょう。遊びなら損害賠償の算定基準となる被害金額は不透明ですし、業務であれば・・・「そんな回線を使うこと自体に無理がある」となるのが大抵のオチでしょう・・・ね。どちらにせよ、「損害を受けた、訴えてやる!」といったメールを出すことは避けた方がよいですよ。別のISPなり回線に乗り換える方が手間も費用もかかりません。メールに「某自動車会社と一緒で誠意が感じられない」なんて書いた日には・・・ISPの担当者大喜び。逆にやりこめられかねません。クレームを付けるにしても大人の対応が良いようで。