先ほど取引先の社長さんより聞いた実話です。

社長さんは電子機器の組み立てメーカー。色々な会社から納入されたユニットを組み立てて、最終的な製品として出荷します。
で、お話の根本は基板を納入する業者さんのお話。

この業者さんは支給されたプリント基板に部品を載せてハンダ付け(実装といいます)をします。あとは実装されたCPU(マイコン)のプログラムを書き込んでもらって、完成した基板として先の社長の会社へ納品します。これがお仕事。
社長さんの会社で納入された基板を製品に組み込んで出荷前テストを行ったところ動かない。色々調べたら、どうも基板のマイコンにプログラムが書き込まれていないらしい。

で、業者さんに問いただしたところ、返ってきた答えが「納期が厳しかったのでプログラムを書き込まないで出荷しました」だそうです。
これは、基板に部品のハンダ付けをしないのと同義です。車で例えるならば「納期が厳しいのでエンジンを積まないで工場から出荷しました」と同じ事です。

この業者さんだけじゃないです。同じようなことをこの数年多く目にします。
いつから日本の物作りはこんなに質が下がった?

私が駆け出しのころから、多くの業者さんに同じような事を依頼してきました。通常の生産ではなく、開発関係での依頼だとスケジュールが厳しい事もあって仕様書だとかは何もなく、最低限の回路図と口頭での簡単にメモ書きでお願いする事になります。それでも、些細なミスはあっても上記の様なことはありませんでした。
逆に業者さんが回路図を一目で理解して「ここの回路、設計を間違えているよ!」と逆に指摘されるようなこともしばしばありました。

資料が無くて時間も限られた中でお願いするから無理があるのは承知の上。それでも仕上げてもらえるのならば多少のミスは依頼したこちらで責任をかぶるものです。さらにより完成度を高めて納入してもらった際にはやはり粋に感じますから、発注単価を上げたり次の依頼をより良い条件でお願いする事になります。私はそうやって教えられてきましたし、実行してきました。

いつの頃からか、「責任を明確にする」という風潮が一般的になりました。この頃から「仕様書が無いとできません」という事が増えてきました。それは決して悪い事じゃないですよ。
ただし、同時に「依頼した内容すらこなせない」という業者さんが増えてきたのも事実です。

私の持論としては、従来型の「安価で大量生産」という製造業はもう日本の主流になることはないと考えています。どうしたって新興国の安い労働単価には勝てません。
日本の物作りが復権するのは「少量多品種・高付加価値」だと思っているのですが、それを実現するには「あ・うんの呼吸」で対応していく必要があります。少量多品種の全てに完璧なドキュメント等を作っていたら・・・双方が潰れます。
最低限の指示内容での依頼で、キチンとした物を作り上げて納入する。これが基本ですし、私が駆け出しの頃はどの業者さんもできていた様に思います。

でも、先ほど取り上げたような信じられないような実話。こりゃ、韓国・中国の次に東南アジア、そしてアフリカにシフトしていくだろう世の中に対抗できませんて。