行き過ぎた合理化。日本の物作りが弱くなった訳。
日本の物作り、特に電機業界が弱体化したのは合理化によるものと考えます。
日本の経済がバブルがはじけた後、徐々に弱体化していきました。特に家電業界は悲惨なもので、ニュース等で皆さんもよくご存じだと思います。
弱体化のきっかけは不景気なのですが、この不景気により企業は合理化という掛け声のもとに無駄を徹底して省く事にまい進しました。この「無駄を省く」という事自体は正しい事だと思います。ただし、余計なところまで無駄を省いてしまっています。その分野はズバリ「人材の育成」です。
私は技術の世界しか知りませんが、技術は度々書いている様に経験がものを言います。昔は本で知識を得ていましたが、最近はインターネットとというとても便利な手段があるので、労せずして知識が手に入ります。この「労せずして知識が手に入る」というのが曲者なのです。
本などで参考事例を探す際は、とても手間がかかりますからより効率良く目的の情報にたどり着く為、頭を使いながら情報を探します。この「頭を使いながら」というのが重要で、外れの情報に当ってもそれが深く記憶に残ります。その時は不要な情報であっても、後日別の仕事の時に「そう言えば、こういう技術があったよね?」と頭の中にインデックスができていますから、次回の調査の時には0から探すのではなく、より目的の情報に近い所から探し始める事ができます。
インターネット全盛の現在では、検索エンジンが良く出来ていますので瞬時に情報を呼び出して目的の情報にたどり着く事ができます。その反面、その時は不要でもいつか必要になるかもしれない情報は始めから排除されていますから、知識に幅ができないのです。
次に、目的となる情報に出会った時、20年位前までは手に入る情報が限られていましたら、必ずと言ってよいほど自分で試してみます。これも度々書いていますけれど、知識を経験に変える重要な作業です。
現在は豊富に情報を手に入れる事ができますから、自分で試す事なく「理解したつもり」になってしまう傾向がある様です。確かに、知識としては一時的に頭に残るのですが、経験へと変わっていない為に短い時間で頭から消えてしまいます。新しい事を理解するには、そのベースとなる事を理解していないといけないのですが、ベースの部分を覚えている事あっても、本当の意味で理解していませんから新しい事を理解できるわけがありません。
私がこの世界に入った頃は、一生懸命本を読んだり、先輩に聞いた事を自分で実験して確かめ、納得して理解しました。また、当時はそういう作業を「ドンドンやれ!」というのが常識で、先輩や上司もそうやって若手が勉強していく事を推奨していましたし、逆に自分で確かめずに分かった気になっていると「確かめたのかっ!?」と怒られたものです。例えば、理科の授業で教科書に書いている化学反応を覚えるのは大変でも、実際に実験をやってみてその化学反応を目で見て体験すればすぐに覚えられますよね?それと一緒です。
確かめる作業を行って、どうしても分からない時には先輩や上司が助け舟を出す。それだけのゆとりがまだありました。
不景気になってからそういう若手が勉強をする時間すら「合理化」という名のもとに省かれていきました。最初にも書きましたが、「無駄を省く」という合理化は賛成です。しかし、こう言ったOJTの場まで省いてしまうと、一時的に人件費などのコストが減りますから効果が上がったように見えても、次世代を担う若手が育ちませんからその企業は先細りとなり衰退していきます。こういう学びの時間は直接の売り上げや利益にその時点では直結していませんが、後々になってボディーブローの様に効いてくるのです。
家電を例にとってみましょう。アナログ時代のテレビは、キレイな映像を映すために職人芸的な経験がふんだんに盛り込まれていました。これは回路図を見ても分からないもので、微妙な調整等で作りだしていたものです。日本人はこう言う作業が得意ですから、テレビの先進国であるアメリカを抜いて家電大国になったのです。
これがディジタル時代になると様子が変わってきます。ディジタル家電の大半は、半導体メーカーが用意するチップを組み合わせる事で成り立っています。裏を返せば、このチップさえ手に入ればあとはチップと一緒に手に入る標準回路(リファレンス)の通りに組み立てれば誰でも同じ性能の物を作る事ができます。そこには、経験とか勘と言う部分は全く必要なく、あとはコスト競争です。現在、韓国とか中国のメーカーが伸びているのはこう言う理由です。
※余談ですが、先日海外で開催されたTV等の展示会でサムソンやLGが大々的なデモをやっていたそうです。ところが、「最先端」として紹介されていた製品のサンプルは既に数年前に日本メーカーが実用化していた技術のもので、新しい技術は無かったそうです。同時に出展していた日本メーカーはブースの見劣りがしていたそうですが、既に先の技術を量産レベルまで落とし込んだ数歩先の展示をしていたとか。これが報道だと「日本は負けている」という事になるのですね。
この10年位、私も若手の様子を見る機会が増えたのですが、年々「自分で確かめる」という作業を知らない人が増えています。「**を調べてね(この時点で私の中では解答が見えていますが)」と依頼します。しばらくして「○○でした」と報告があります。「確かめてみた?」と聞けば、決まり決まって「ネットではこうなっていました」という返事が返ってきます。
実際に試作をやってみると大抵は上手くいきません(勿論、我々だって上手くいかない事は多々あります)。
その人なりの理解をして取り組んでいれば上手くいかなくても「何処が悪いのだろう?」と見当をつけて調べ始める事が出来るのですが、理解せずに始めている為に「なにから手を付けて良いか?」がほとんどの場合分かっていない様です。何から手を付けて良いかが分からなので、闇雲にネットで調べて片っ端からやってみる。でも、その片っ端からやってみる確認作業にも抜けがあるので更にハマる。
私はこう言った経験も重要だと思っていますので、状況が許す限り合理化主義者が良く言う「誰かに知っている人に聞けば早い」という事はさせずに、とにかくやらせてみます。考えさせ、試させ、上手くいかなればまた原因を考えさせる。上手くいったら「どうして前はダメだったのか?」をもう一回考えさせる。どうしても上手くいかない時に初めて「こう考えてみたらどうだろう?」とヒントだけ出す。最後に「なぜ上手くいかなかったか?どうして上手くいったのか?」について説明する。これが私の流儀です。
何の事はありません。私が駆け出しの頃、先輩や上司にこうやって教えてもらって今の私があるのですから。
最初の方に書きましたが、こういう学ぶ機会は合理化主義者からすれば無駄な事です。知っている人に聞けばよい。知っている人を連れてくれば良い。確かに効率的ですよね。
でも、そのノウハウを継承していかないと、毎回0からのスタートになります。それこそ無駄だと思うのです。ノウハウがあれば、たとえ別の仕事だったとしても0からのスタートになる事はあまりないはずです。
韓国メーカーは日本を始め世界中から優秀なエンジニアを連れてきて製品の開発にあたっているそうです。だから、今の躍進があります。でも、私が知る事が出来る限りではあますが・・・内情を聞けば・・・
早ければあと数年。かかっても10年もしてみてください。きっと、今の地位にはありませんよ。
※中国メーカーは論外です。低コストでの生産はできますが、開発はできていません。
その頃の日本はどうなっているか?行き過ぎた合理化の考えを捨てる事が出来れば、もう一度巻き返せる実力はあると思っています。例えば、中国のレアアース輸出規制を受けて、即座にレアアースに頼らないでも製品を作れる技術をリリースするといった実例があります。たぶん、地道な研究開発をされていたと思うのですが、すぐに実用レベルまで落とし込むことができる。これが強みです。私の持論である「日本の進むべき道は高付加価値路線」の一例です。
ソフトウェア等の業界では若手が活躍する場があります。ところが、ハードウェアになると40代といった中堅どころが重宝されています。答えは簡単です。アナログからディジタルに技術の世界は移行したのですが、そのディジタル技術も尖ったところまでいくとアナログの技術が必要になります。アナログ技術があって初めてディジタル技術は成り立っているのです。
このアナログ技術を実戦で経験しているのが今の40代以上なのですね。
日本の企業、特にメーカーが今行わなくてはならない事は、若手に経験を積んでもらう時間と費用をかける事。今のご時世では難しいと思うのですが、今ここをやらないと、必ずこの先しっぺ返しが来ます。合理化もほどほどに。
自動車部品の生産現場も電機業界と同じく生産性向上の名の下に少人化が進み先輩が後輩と共に作業を伝承(OJTってやつですね)をする余裕はありません、今の若い人、機械で遊んでない(バイクや車、プラモデル)んで、モノ造りってものや日本の産業(加工貿易)の行き先は暗いですね?っ。経営陣は自分の任期の収益しか考えていないんですよね(涙)
生産性を計る物差しがこれまたクセモノ
とにかく部門の損益が重要とくる。
要はどれだけ儲けているか。
だから人員を削減し、外部会社へ発注して・・・
そのうちLeviさんが以前言っていた、中抜きされ物量が減り
だから人員を・・・・はははっ
気づいていても止められない、止まらない ほほほほっ?
こんばんわ。
「人材の育成」をしなくなった。。。無職の時にすごく感じました。
経験者しか求めない募集が多かったからです。
今の仕事先でも育成してるのかなぁ?と思うことがあったりします。
皆さん、どーも!
多くの人が気づいていて、多くの人が分かっているけれど、具体的に改善されない問題ですよね。
全ては欧米式(特にアメリカ)の数値と金額による評価手法と合理化に対して右に倣えをしているからだと思うのです。
そのアメリカが80年代位から崩壊しているにも関わらず、日本は未だにそのやり方を実行している様に思うのです。そのアメリカでも「このままじゃダメだ!」と方向転換している企業が出てきているのに、日本はその気質もあって、更に合理化を進めちゃっている。
自分で自分の首を絞めていると思うのですね。
シローソンさん
やっぱりそうですよね。この先、どうやっても日本の従来型加工貿易は成り立たないので、早く次ステージに移行しなくちゃならないです。その時に土台となるのが従来の仕事で得た経験と言うノウハウなのですが、それを捨てちゃっていますからね・・・
LeeLooさん
私はあえて本文では「合理化」と書いていますが、その本質は拝金主義ですよね(^-^)
全てを損益と言う数字で判断するからおかしくなるのです。
私が今まで書いてきた「間違えたアウトソーシング」とか「中抜き」の意味は良くご存知かと!(^-^)
しぉぁにさん
残念ながら、「会社が人材を育成する」という考えは早い所だと20年前。一般的には10年前に終わっています。企業が人材の育成を10?20年前のレベルで再び行う様になる時代は個人的にはもうやってこないと思っています。
本文は会社員視点で書いていますけれど、既に「自分の身は自分で守る」時代だと思っていて、会社をアテにしている人はこの先脱落しかないですし、そういう理由で脱落した人が独立しても成功は無いとも思っていますよ。
悲しいけれど、これが現実です。