先の防災無線の例ではありませんが、平時の企業活動でもマニュアル化が適切かどうかは長年疑問に感じています。

私は技術職なのですが、社会に出た当時の情勢は企業であっても「先輩の仕事を見て盗む」という風潮でした。上司や先輩に一般的なOJTを受けつつも、仕事ぶりを見て「なぜそうするのだろう?」という事を常に考え、時間がある時には練習したり実験したりして、その仕事を覚えていきました。
こうやって「頭を使って覚えた事」というのはシッカリと自分の身になります。ですので、障害とか緊急時には見た事や練習した事全てが蓄積されていますから、判断できる事はへ対応できるのは当然として、今まで経験した事が無い場合でもいろいろ推測をして仮説を立て、対処していくという訓練が日頃からできています。そして、その対応で得た経験は更に蓄積されて次の仕事につながるのです。

私の経験では90年代後半位からでしょうか、効率化の名のもとに変にマニュアル化が現場にも求められるようになりました。確かに、先のエントリーでも書きましたが、マニュアルはあるところまでは大変有効だと思います。しかし、「自分で考える」という訓練ができていない社員はその次のステップへ進むことができません。次のステップに進むにもマニュアルが必要なのです。

この辺りの事を理解していない上司や経営者にブチ当たると大変です。何かとあれば「マニュアルを作れ」と言います。そして、マニュアルができれば安心します。これではダメ。マニュアルは最初の一歩を踏み出すためのツールに過ぎない事を理解していない管理職が増殖を始めたのが90年代半ば以降なのです。

かといって、先輩社員が自分の技術や経験を自ら囲っていても、スピード感が求められる現在には通用しません。その先輩社員が経験した事と同じ事を、また1から後輩に経験させていたのでは他社に後れを取ってしまう事も事実なのです。
ただし、資料として体裁の整ったマニュアルをこの先輩社員に作らせるのも適切ではありません。マニュアル作りは予想外に手間と時間がかかるもの。それだけの労力をかけるのならば、次の案件にリソースを割いた方が将来への展望も開けるというもの。

それらの点を踏まえて、最近はナレッジマネジメントの中でも知識共有化と呼ばれる事に取り組んでいます。まぁ、進んだ企業ならごく普通にやっている事なのですけれどね。
例えば障害対応をしたのならば、その障害の内容と対応内容を記録として残す事です。この時には出来るだけ詳細に記録を残す事を心がけていますが、体裁にはこだわりません。この知識共有化は常に改変されて進化していくものであり、体裁にこだわる労力をかけるのであれば次の仕事にリソースを割り振った方がはるかに次につながるからです。

その手段も遅れている企業ではメールによる「情報の展開」が良く行われていますが、これは大きな誤りです。確かにメールは手軽で便利な手段なのですが、途中からその仲間に加わった人にはそれ以前の情報共有されにくいのです。少なくとも、その人が案件なりチームなりに加わる以前からの情報も検索できるようにしなければなりません。最低でもメーリングリストの様な仕組みは必要でしょうね。
まだなかなか良い仕組み(例えばグループウェアとか)には出会っていないのですが、「最低限の労力」で「記録を残し」、「検索して」、「共有できる仕組み」はまだまだ発展途上ですから、これからしばらくは話題になるかもしれませんね。